top of page

フロムを読み返す

フロムの生きるということ(原題to have or to be?)を読み返していることもあって、歳だけをとった教養とヒューマニズムが皆無な「持つ存在様式」のわかりやすいモデルだなと思った。

老害の現実についての最高の皮肉になっているのが、フロムがルイス・マンフォードの巨大機械/メガマシーンを引用した箇所で、 「平凡な知性と能力の持ち主でも、いったん彼もしくは彼女が権力の座につけば、容易に国家を動かすことができる」というもの。 しかしそれと同時に、「人々はヒツジとなり、批判的思考の能力を失い、無力感を持ち、受動的となり、必然的に、何をなすべきかを、そしてそのほか自分たちの知らないすべてのことを〈知っている)指導者にあこがれるようになる」とも指摘している。 全くもって自分にも身に覚えがあること。

持つ存在様式について、「消費することは持つことの一つの形態であり、それもおそらくは今日の豊かな産業社会にとっての最も重要な形態である。消費することの特質は多義的である。すなわちそれはまず不安を除いてくれる。」と書いている。

人材、他者を使う、利用する、消費する。それを可能とするのが「官僚制的な精神」であるとし、 「官僚制的な精神がいかに人間を麻痺させるものであるか、またそれがいかに人生のすべての分野に行き渡っているか、である。」と。

官僚制的な精神を生み出す「官僚制的方法とは、(a)人間をあたかも物のごとく管理し、 (b)物を質的な観点でなく量的な観点から管理することによって、数量化と支配をいっそう容易で金のかからないものにしようとする方法と定義することができる。官僚制的方法は統計的データに支配される。官僚は決定をなすに当たって、目の前に立っている生きた人間への反応ではなく、統計的データから得た固定した規則を基礎とする。」 1976年にフロムが指摘したことは40年を経てもあてはまるどころか、当時「もし」と前置きして綴った巨大機械/メガマシーンはまるで完成したかのように映る。

SNSで映し出される世界は持つ存在様式ではないか。たしかに無料で広告が打てるようになった恩恵はあるけれど、個人の企業化はどこか寂しく、巨大機械の歯車を加速させる新たな動力にも思える。だからこそSNS的価値観に染まりたくないと言語化する前から危機感を感じていたのではないか。 現代メディアは個々人の中にあるアイヒマンを増幅させてはいないだろうか。 フロムは「生きている人間がいったん数に還元されてしまったら、真の官僚はまったくの残酷行為を犯すことができる。」と言う。 「アイヒマンは官僚の極端な一例であった。アイヒマンが数十万のユダヤ人を殺したのは、彼らを憎んだからではなかった。彼はだれをも憎まず、だれをも愛さなかった。アイヒマンは「義務を果たした」のだ。彼はユダヤ人を殺したとき、義務に忠実であった。彼にとって大切なことは、ただ規則を守ることだけであった。」

3.11は持つ存在様式を揺さぶり、ある存在様式を炙り出した。 コロナは個々人のアイヒマンに力を与えているのか。無自覚かつ無意識に。

アルベルト・シュヴァイツァーは現代の能動性の受動的な性格を、文明の衰退と回復の研究において、現代の人間を不自由で、不完全で、集中力がなく、病的に従属的で、まったく受動的であると見ている。 カール・マルクスは人間の能動性とは生命である。と言う。 フロムは「スピノザの能動性と受動性の概念は、産業社会に対する最もラディカルな批判である。」と書いているが、老害と呼ばれる人たちへの痛烈な批判だとも思う。なぜなら「主として金や所有や名声への貪欲にかりたてられる人物は正常でよく順応している、という今日の信条とは対照的に、彼らはスピノザによって、受動的で根本的に病んでいるとみなされる。」と続くから。

老害を生み出す病んだ人間にならないようにするには、日々なにを為すべきか。 covid-19一色に見えそうないま、子育て中でよかったと私は思う。幼い子供達は全身で生きている喜びを表しているから。 我が子を通じて出会う子供達みなそれぞれがそうだった。 卒園式の翌日、強くそう想った。

”私たちが生きている社会は財産を取得し、利益をあげることに専念しているので、「ある存在」様式のあかしはめったに見られず、たいていの人びとは「持つ」様式が最も自然な存在様式であると思い、受け入れうる唯一の生き方であるとさえ思っている。” そうではない、ということを子供達から学びつつ、子供達へと伝えられるような在り方を模索し続けたい。


最新記事

すべて表示
参加者の声

プライベートメッセージで感想をいただくことは多いのですが、 こうやって公開投稿していただけるとシェアし易くてありがたいです〜 :) でも、 DMも投稿も、どちらもとっても嬉しいです!

 
 
 
伊吹山

先日から始めた田畑とアートのワークショップcul cul farm and Labo 写真を撮りに来てくださっているマサヒロさんに連れられるようにして子供たちは田んぼ横を流れている川の沢登りをしました これがめっぽう楽しかったようです...

 
 
 

Comments


  • Black Instagram Icon
  • Black Facebook Icon
  • images
  • Blogger
  • icons8-airbnb-200

Copyright ©️ 2022 渡部建具店 All rights reserved.

bottom of page